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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)7853号 判決

甲乙事件原告 中村照雄

甲事件原告 中村正雄

〈ほか一三名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 田中清和

甲乙事件被告 三和商事こと 福田貞義

甲事件被告 福田安彦

乙事件被告 図書明造

右被告ら訴訟代理人弁護士 力野博之

主文

一  甲事件被告らは、甲事件原告らそれぞれに対し、各自別紙一覧表合計欄記載の各金員及びこれに対する昭和六三年八月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告らは、乙事件原告に対し、各自金三五万円及びこれに対する乙事件被告福田貞義は平成元年九月一七日から、同図書明造は同月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  乙事件原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、甲乙事件原告中村照雄と甲乙事件被告福田貞義、甲事件被告福田安彦及び乙事件被告図書明造との間においては、右原告に生じた費用の三分の一を右被告らの負担(負担割合は、甲乙事件被告中村照雄七、甲事件被告福田安彦六、乙事件被告図書明造一)とし、その余は各自の負担とし、甲事件原告中村照雄を除くその余の甲事件原告らと甲事件被告らとの間においては、全部同被告らの連帯負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(甲事件)

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は甲事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

(乙事件)

1 乙事件被告らは、乙事件原告に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する乙事件被告福田貞義は平成元年九月一七日から、同図書明造は同月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は乙事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(甲乙事件)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(甲乙事件)

1 当事者

(一) 甲事件原告ら(以下「原告ら」といい、甲及び乙事件の各原告を「原告」という。)は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)上に別紙図面のとおりの配置でそれぞれ建物を所有し、本件土地の各所有建物の敷地部分をそれぞれ賃借し、家族とともに長年平穏に居住してきたものである。

(二) 甲乙事件被告福田貞義(以下「被告福田貞義」という。)は、三和商事の代表を名乗る大阪でも名うてのいわゆる地上げ屋であり、昭和六一年九月ころ、原告らの借地である本件土地をその所有者訴外河田勢津子外三名から買い取ったものであり、甲事件被告福田安彦(以下「被告福田安彦」という。)はその息子、乙事件被告図書明造(以下「被告図書」という。)は被告福田貞義の腹心の部下であるところ、被告らは、意思を相通じ、共同して原告らに対し、以下のとおりの違法不当な方法で土地明渡しを強要してきたものである。

2 被告らの違法不当な土地明渡しの強要行為

(一)(1) 被告らは原告らに対し、昭和六一年九月ころから、本件土地を買い取り新地主となった旨通知したうえ、自ら「有名な地上げ屋である。」とうそぶき、原告ら方を訪れては「所有建物を売って立ち退くか、地代の三倍値上げをのむか。」などと言って、暴力団さながらに語気荒く土地明渡しを要求し始めた。

(2) そこで、原告らは被告らに対し、長年住みなれたところであるから建物を売る意思はないこと、地代値上げに応じる意思もないこと、今後の話し合いの窓口として原告らの本訴代理人を選任することを通知した。

(二)(1) ところが、被告らは、原告らの右通知を無視し、その使用人(大山某、高橋某、渡辺某その他)や山口組系の暴力団員を使い、原告らに対し個別に執拗かつ陰湿な攻撃をかけ、昭和六二年三月には、ついに訴外藤林外二名の建物買取り及び土地明渡しに成功し、翌四月には、棟続きの長屋のうち三軒を取壊し、その跡地(別紙図面の「プレハブ小屋」と記載されている場所)にプレハブ小屋を建て、そこを拠点とするに至った。

(2) 被告らは、右プレハブ小屋前に数一〇〇ワットの照明を点灯し、同小屋に常時四、五人の暴力団員風の男をたむろさせ、徹夜麻雀大会なるものを開いたほか、原告らが長年使用している通路に鎖つきの鉄杭を立てて通行を妨害するなどの嫌がらせを繰り返した。

(3) さらに、被告らは、原告らの再三にわたる補修要求にもかかわらず、「どうせ取り壊すことになる建物に工事は無駄や。」などと暴言をはいて、右建物取壊し後その両側の建物の壁を結局同年四月から六月の梅雨に入るまで放置した。

(4) また、被告らは、右翼暴力団員数名に指示して、大型宣伝カー二台を原告ら住居前に横づけさせ、「お前らは三和商事の地主に地代を払わず不法に占拠している。我々はこのような行為を断じて許さない。」などと演説させた。

(5) 被告らは、原告らが、団結して節度ある態度で被告らと対応し、また、原告ら代理人を通じて被告らの前記行為に対処していたので、昭和六二年中はそれ以上の強行な行為に出ることはできなかった。

(三)(1) ところが、昭和六三年になると、被告らは、「地上げして一年以上になるが、さっぱり進まん。」などと言って、前記使用人や暴力団員を繰り出し、さらに激しい各個撃破攻撃を始めた。

(2) 被告らは、二ないし五名の者が一組となり、主として午後七時ころから午後一一時ころの間、原告らの住居を戸別に訪問して面会を強要し、「すぐ出て行け。わしらが地主や。貸す気はない。金はなんぼ欲しいんや。」などと長時間繰り返して原告らに土地明渡しを迫り、原告らが「それは弁護士に委しているから弁護士に話して欲しい。」と言うと、「弁護士がなんじゃい。借りてんのはお前らやろ。弁護士に土地貸してるんとちがうんや。弁護士が死ねと言えばお前ら死ぬるんか。わしらと話ができんのやったらすぐ家をつぶして出て行け。家がつぶれたら元も子もないことは分かっとるやろな。最近は火事も多いからな。」などと言って原告らを脅した。

(3) また、被告らは、原告らがドアを閉めて被告らの面会強要を拒否していると、原告ら宅のベルを鳴らし続けたり、ドアを強く執拗にたたき続けたり、ドアを足蹴りしたり、さらには大声で「○○!(原告らの名前)出て来んかい。出て来い。土地を返せ、土地を返せ。土地泥棒、土地泥棒、土地泥棒。」などと繰り返し怒号し、時にはそれが一時間を越えることもあった。

(4) これらの行為は、特に被告らのプレハブ事務所のある付近、すなわち原告中村照雄、原告中村正雄、同合田、同八家、同韓、同村、同坂口、訴外余野、同山中、同岩村に対し激烈を極めた。

(5) そのため、同年三月には訴外山中、同年五月には同岩村、同年六月には同余野と三軒が耐え切れなくなり、その所有建物を被告らに売却して引っ越した。

(四)(1) 昭和六三年七月に入ると、右のような被告らの行為は一層激しさを増した。そのため、原告らのなかには、夕方になっても電灯もつけず、息をひそめてじっと夜中がくるのを待つ者も出てきた。原告らの子供らは怯え、勉強も手につかなくなった。

(2) 原告らが、被告らの行為にたまりかねて一一〇番し、パトカーを呼ぶ回数も重なるようになった。

(五)(1) 被告らは、同年七月一八日から、もと訴外山中、同岩村、同余野の各所有で前記売却により空家になった建物の解体工事にとりかかった。被告らは原告らに対し、右解体工事により隣家に被害を及ぼすことがないようにという原告らの要請について了解する旨答えた。

(2) しかるに、被告らは、解体業者にわざと乱暴な工事を行わせ、同月二〇日、隣家の原告韓の所有建物の南側壁と屋根に甚大な被害を与えた。同原告の所有建物の南側壁には穴があいて外が見える状態となり、同原告の住居内には壁土が落ち、同日夜の雨で二か所が大変な雨漏りとなった。右状態を直ちに補修するよう要求した原告らに対し、被告らに雇われた右解体業者は「(被告らに)無茶苦茶にやったほうがよいと言われている。」と言って開き直った。

(六) 原告らは、昭和六三年七月二〇日、大阪地方裁判所に対し、被告らの一切の不法行為を禁止すること等を命ずる仮処分申請を行い、翌二一日、これを全面的に認容する決定を得た。

(甲事件)

3 甲事件被告らの不法行為

(一) 甲事件被告らの前記の二年近くにわたる一連の行為は、原告らの平穏に生活する権利を違法に著しく侵害するものである。

そもそも、原告らは、地代を滞りなく支払っている正当な借地権者であり、借地明渡しを一方的に強要されるいわれはない。

したがって、甲事件被告らの一連の行為は、いかなる意味においても許されるべきではない。

(二) 原告らが甲事件被告らの行為により被った精神的・肉体的苦痛は甚大であり、筆舌に尽くし難いものであるが、これを金銭的に評価するならば、少なくとも別紙一覧表の各慰謝料欄記載の金額を下らない。

因みに、原告らの間に一五〇万円と一〇〇万円の二段階の差をつけたのは、前記2(三)に述べたように、被告らのプレハブ事務所付近とそうでない所とで被害の程度に差があるからである。

4 弁護士費用

原告らは、本訴を提起するにあたり、それぞれ代理人に弁護士費用として別紙一覧表の各弁護士費用欄記載のとおり損害賠償請求額の一割を支払う約束をした。

5 よって、原告らは甲事件被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、各自別紙一覧表の合計欄記載の各金員及びこれらに対する本件不法行為後である昭和六三年八月三一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(乙事件)

6 原告中村照雄は、肩書地において約三〇年間「大阪ファッションセンター」の屋号で紳士服製造販売業を営んできたものであり、他の原告らに推薦されて甲及び乙事件被告らの土地明渡しの強要に対抗すべく世話人となり、その矢面に立ってきたものである。

7(一) 原告らは、昭和六三年八月二四日、大阪地方裁判所に対し、甲事件被告らに対する損害賠償請求の訴え(甲事件)を提起した。

(二) このことは、テレビニュースや新聞各紙に大々的に報道された。

8 乙事件被告らの原告中村照雄に対する名誉及び信用毀損行為

(一) 乙事件被告らは、前記仮処分決定及び損害賠償請求の訴え提起によって、これまでのようなやりたい放題の無法行為ができなくなった。このため乙事件被告らは、原告中村照雄を原告らの首謀者とにらんで逆恨みし、仕返しの機会をうかがっていた。

(二) 乙事件被告らは、六三年九月七日午後八時過ぎころ、共謀のうえ、原告中村照雄居宅前の道路を隔てた向かい三和商事管理地内にベニヤ板製の看板を立て、原告中村照雄の顔写真が掲載された同年八月二六日付読売新聞朝刊記事をA3版大に拡大コピーしたうえ、同原告の顔写真部分を黒マジックインキで四角に囲み、且つ、「手形不渡り専門」「手形連発」「男前手形」「振出すな」などと記載した用紙二枚を貼りつけ、さらに表通りの電柱やアパートの窓に右同様の用紙を一〇枚近く貼りつけた。

(三) これは、原告中村照雄があたかも手形を乱発し不渡りを出したかのような虚偽の事実を公然と摘示し、違法に同原告の名誉及び信用を毀損したものである。また黒枠で顔写真を囲むのは新聞の死亡記事になされるもので、同原告に対する脅迫行為となるものである。

9 原告中村照雄の損害

(一) 原告中村照雄は、被告らとの二年間にわたる折衝により心労が重なり、心因性喘息の発作のため入院治療を余儀なくされていたところ、乙事件被告らの前記不法行為により、深刻なショックを受け、これによりさらに心因性喘息の症状は悪化した。また、同原告の信用は、前記不法行為により取引先や取引銀行などが前記貼紙記載内容を詮索・取り沙汰するなど、大いに傷つけられた。

(二) 以上のように、原告中村照雄は乙事件被告らの前記行為により永年培ってきた名誉及び信用を著しく毀損され、精神的にも肉体的にも大きな苦痛を受けた。これを金銭的に評価するならば、四五〇万円を下らない。

(三) 原告中村照雄は、本訴を提起するにあたり、代理人に弁護士費用として五〇万円を支払う約束をした。

10 よって、原告中村照雄は、乙事件被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、各自五〇〇万円及びこれに対する被告福田貞義に対しては本件共同不法行為後で、訴状送達の日の翌日である平成元年九月一七日から、被告図書に対しては本件共同不法行為後で、訴訟送達の日の翌日である同月七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(甲乙事件)

1 請求原因1(当事者)について

(一) 同(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

2 同2(被告らの違法不当な土地明渡しの強要行為)について

(一)(1) 同(一)(1)の事実のうち、被告らが原告らに対し、昭和六一年九月ころから、本件土地を買い取り新地主となった旨通知したうえ、原告ら主張の言辞を言って原告らを戸別に訪れるようになったことは認め、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実は認める。

(二)(1) 同(二)(1)の事実のうち、被告らが原告らの通知を無視し、その使用人を使って原告らに対し個別に立ち退き交渉をしたこと、被告らが昭和六二年三月に訴外藤林外二名の建物買収に成功し、翌四月には棟続きの長屋のうち三軒を取壊し、その跡地にプレハブ小屋を建て、そこを拠点とするに至ったことは認め、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実のうち、被告らが右プレハブ小屋前に数一〇〇ワットの照明を付けたこと、被告らが原告らの長年使用している通路に鎖つきの鉄杭を立てたことは認め、その余の事実は否認する。

(3) 同(3)の事実のうち、被告らが原告らの再三にわたる補修要求にもかかわらず、前記建物取壊し後その両側の建物の壁を結局昭和六二年四月から六月の梅雨に入るまで放置したことは認め、被告らが原告主張のような暴言をはいたことは否認する。

(4) 同(4)の事実は否認する。

(5) 同(5)の事実は認める。

(三)(1) 同(三)(1)の事実のうち、昭和六三年になって被告らが原告ら主張のような言辞を弄して、前記使用人を使って、個別に土地明渡しの交渉をしたことは認め、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実のうち、被告らが午後一一時ころまで原告らの住居を戸別に訪問したことは否認し、その余の事実は認める。

(3) 同(3)の事実のうち、被告らの嫌がらせが一時間を越えることもあったことは否認し、その余の事実は認める。

(4) 同(4)の事実は否認する。

(5) 同(5)の事実のうち、同年三月には訴外山中、同年五月には同岩村、同年六月には同余野と三軒がその所有建物を売却して引っ越したことは認め、右訴外余野外二軒が被告らの攻撃に耐え切れなくなったことは不知。

(四) 同(四)(1)、(2)の事実は不知。

(五)(1) 同(五)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実のうち、被告らが雇った解体業者が、同月二〇日に隣家の原告韓の所有建物の南側壁と屋根に甚大な被害を与えたこと、同原告の所有建物の南側壁には穴があいて外が見える状態となり、同原告の住居内には壁土が落ち、同日夜の雨で二か所が大変な雨漏りとなったこと、原告らが右解体業者に右状態を直ちに補修するよう要求したことは認め、右解体業者の原告主張の言動は知らず、その余の事実は否認する。

(六) 同(六)の事実は認める。

(甲事件)

3 同3(甲事件被告らの不法行為)について

(一) 同(一)の事実のうち、原告らが地代を滞りなく支払っている正当な借地権者であり、借地明渡しを一方的に強要されるいわれはないことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)は争う。

4 同4(弁護士費用)は争う。

5 同5は争う。

(乙事件)

6 同6の事実は不知。

7 同7(二)の事実は不知。

8 同8(乙事件被告らの原告中村照雄に対する名誉及び信用毀損行為)の事実は否認する。

9 同9(原告中村照雄の損害)の事実のうち、(一)の事実は知らず、(二)及び(三)は争う。

10 同10は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者について

1  請求原因(甲乙事件)1(当事者)(一)(1)の事実は当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によると、被告福田貞義は、三和商事の代表を名乗るいわゆる地上げ屋で、昭和六一年九月ころ、本件土地をいわゆる地上げを目的としてその所有者から買い取り、息子の被告福田安彦及び従業員の被告図書らと意思を相通じ、共同して原告らに対し、本件土地の明渡を迫ってきたものであることが認められる。

二  被告らの土地明渡しの強要行為について

《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

1(一)  被告らは原告らに対し、昭和六一年九月ころから、本件土地を買い取り新地主となった旨通知したうえ、原告ら方を戸別に訪れては、「所有建物を売って立ち退くか、地代の三倍値上げをのむか。」などと言って本件土地の明渡しを迫り始めた。

(二)  そこで、原告らは被告らに対し、建物売却の意思も、地代値上げに応じる意思もないこと、今後の話し合いの窓口として原告らの本訴代理人を選任すること等を通知したが、被告らは、原告らの右通知を無視し、その使用人(大山某、高橋某、渡辺某、赤穂某その他)を使い、また、自ら原告ら方を戸別に訪れては、土地明渡しを執拗に迫った。

2  そして、被告らは、昭和六二年一月にはついに訴外藤林外二名の建物買取り及び土地明渡しに成功し、同年四月には右買取りにより空家となった三軒(別紙図面の「空地」及び「プレハブ小屋」と記載されている土地上にあった建物)を取壊し、その跡地の一部にプレハブ小屋を建て(別紙図面の「プレハブ小屋」と記載されている場所)、そこを拠点とし、使用人らを含めて四、五人の者が常駐し、その小屋前に数一〇〇ワットの照明灯を設置してこれを夜通し点灯し、夜遅くまで酒を飲んだり麻雀をしたりして騒ぎ、また、原告らが長年使用している通路に鎖つきの鉄杭を立てて通行を妨害するなど、原告らに対し嫌がらせを繰り返した。

右夜間における照明や騒音による被害は、右プレハブ小屋付近の建物居住者、すなわち、原告中村照雄、同中村正雄、同合田、同八家、同韓、同村、同坂口らについて特に大きいものがあった。

また、前記建物の取壊しにより、その両隣の建物(原告中村正雄、同合田、同坂口宅)の側壁は土壁がむき出しの状態となり、これが雨水により浸食されるおそれが生じたのに、被告らは同年六月ころまでその補修をしないまま放置した。

3  また、被告らは、昭和六二年五月ころ、いわゆる右翼団員数名をして、右翼団体の宣伝カー二台を原告らの住居付近に横づけさせ、スピーカーで、「お前らは三和商事の土地を地代も払わず不法占拠している。そのような行為は許さない。」などと、耳をつんざくばかりの大音量で演説させた。

4(一)  被告らは、原告らが、被告らによる前記のような嫌がらせに対して、団結して節度ある態度で対応し、また、原告ら代理人を通じて対処していたので、昭和六二年中はそれ以上の強行な行為に出なかったが、昭和六三年に入ると、「地上げして一年以上になるが、さっぱり進まん。」と言って、前記使用人らと共に、原告ら方を戸別に訪問し、さらに執拗かつ卑劣な方法で強行に土地明渡しを要求するようになった。

被告らは、前記使用人らを含め二、三名の者が組となり、主として午後七時ころから午後一一時ころの間、原告らの住居を戸別に訪問して面会を強要し、「すぐ出て行け。わしらが地主や。貸す気はない。金はなんぼ欲しいんや。」などと長時間繰り返して原告らに土地明渡しを迫り、原告らが「弁護士に委しているから弁護士に話して欲しい。」と言うと、「弁護士がなんじゃい。借りてんのはお前らやろ。弁護士に土地貸してるんとちがうんや。弁護士が死ねと言えばお前ら死ぬるんか。わしらと話ができんのやったらすぐ家をつぶして出て行け。家がつぶれたら元も子もないことは分かっとるやろな。最近は火事も多いからな。」などと怒鳴り、原告らを脅した。

また、被告らは、原告らがドアを閉めて被告らとの面会を拒否していると、原告ら宅のベルを鳴らし続けたり、ドアを強く執拗にたたき続けたり、ドアを足蹴りしたり、さらには大声で「出て来んかい。出て来い。土地を返せ、土地を返せ、土地泥棒、土地泥棒、土地泥棒。」などと繰り返し怒号し、時には右行為を一時間以上も継続した。

(二)  そのため、本件土地上の建物所有者の中には、被告らの行為に耐え切れず、被告らに建物を売却して転居する者も出るようになった。

5(一)  昭和六三年七月に入ると、前記のような被告らの原告らに対する行為は、一層激しさを増した。

被告らは原告らに対し、原告ら方を戸別に訪れて面会の強要を繰り返し、「あんたんとこが家のけるまで、一生死ぬまで繰り返しやで。何年でも百年でも土地明け渡すまで来てやる。あんたら死んだら息子や娘のとこへ行ってやる。」、「とことん追い詰めてやる。ここの大将の会社まで行ってたんぞ。息子や娘のとこでも、どこへでも行ってやる。とことん追い詰めたるわ。」、「出て行きたくなかったら出んでもええ。一生住んどけ。おれも一生行ったるわ。一生出て行けと追い詰めたる。」、「マッチ一本でどないでもなるんやで。」などと言って脅したりした。

(二)  そのため、原告らのなかには、夕方になっても電灯もつけず、息をひそめてじっと夜が更けるのを待つ者や、知人宅に避難したり、不眠症に陥ったりする者も出てきた。原告らの子供らは怯え、勉強も手につかなくなった。原告らが、被告らの行為にたまりかねて一一〇番し、パトカーを呼ぶ回数も重なるようになった。

6  被告らは、同年七月二〇日ころ、立退きさせた建物(原告坂口宅の南隣の建物二戸及び同韓宅の南隣の建物一戸)の解体工事にとりかかったが、その工事を請負った業者にわざと乱暴な工事を行わせ、原告韓所有建物の南側壁や屋根を損傷させた。

同原告は、右所有建物の南側壁に穴があき、屋根は大変な雨漏りがするようになったので、右損傷箇所を補修するよう右解体業者に要求したが、右解体業者は、「自分らは三和商事から強引にやれと言われている。頼まれたら人でも殺す。」と言って開き直った。

7  原告らは、同年七月二〇日、大阪地方裁判所に対し、被告らの一切の不法行為を禁止すること等を命ずる仮処分申請をし、翌二一日、これを全面的に認容する決定を得た。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

三  甲事件について

1  前記認定事実によると、甲事件被告らは、原告らを畏怖ないし困惑させて原告ら所有建物を右被告らへ売却させ、もって原告らの本件土地明渡を実現することを企図し、共同して、自らあるいは被告福田貞義の使用人を使って前記二認定の行為に及んだものと認められるところ、右被告らの行為は、原告らの生活の平穏、自由、財産等を侵害し、あるいは右侵害行為を継続しかねない態度を示して原告らを脅迫するものというべきであり、その動機、態様、原告らの被侵害利益の内容・程度等に照らせば、それが土地所有者として借地権者に対する土地明渡交渉の一環としてなされたものであっても、社会的に是認される限度を著しく超え、違法性を有するものであることは明らかというべきである。

したがって、右被告らの行為は共同不法行為を構成し、右被告らはこれによって原告らが被った精神的苦痛を慰謝すべき義務がある。

2  損害

(一)  慰謝料

前記認定の甲事件被告らの原告らに対する前記行為の目的、態様、その期間、各原告の被害の程度等諸般の事情を斟酌すると、原告らがそれぞれ甲事件被告らの前記行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、別紙一覧表の各慰謝料欄記載の金額が相当と認められる。

(二)  弁護士費用

甲事件の事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが甲事件被告らに対して賠償を求めうる弁護士費用の額は、別紙一覧表の各弁護士費用欄記載の各金員が相当と認められる。

四  乙事件について

1  乙事件被告らの原告中村照雄に対する名誉及び信用毀損行為について

請求原因7(一)の事実は当裁判所に顕著であり、《証拠省略》によると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告中村照雄は、別紙図面の「大阪ファッションセンター」と記載された場所において長年紳士服の製造販売業を営み、他の原告らに推されて被告らの土地明渡の要求に対抗すべく世話人となり、その矢面に立っていたところ、原告らが被告らのいわゆる地上げ行為に対して甲事件を提訴したことが複数の新聞で報道されるや、乙事件被告らは、原告中村照雄が心因性喘息発作の治療のため入院中の昭和六三年九月七日、同原告宅前の道路を隔てた向かいの三和商事管理地内(別紙図面の「プレハブ小屋」と記載された場所)に設置されたベニヤ板製の看板に、同原告の顔写真が掲載され、「地上げ屋に賠償請求」という見出しで甲事件を提訴した旨の記事が載った新聞のコピーを、通行人の目に触れるように二枚掲示し、被告福田貞義は、黒マジックインキで、右コピーの原告中村照雄の顔写真部分をそれぞれ四角に囲み、その上下の余白部分一杯に、通行人が一見して読み取れる大きさの文字で、「手形不渡り専門」、「手形連発」、「男前手形」、「振出すな」と記載した。そして、右被告らは、右の掲示を二、三日間続けた。

(二)  原告中村照雄は、手形を振出したことは一度もなかったところ、自己の取引銀行や取引先から、右掲示文書記載の事実関係について問い合せを受けた。

2  右認定事実に、前記二認定の事実を合わせ考慮すると、被告福田貞義及び同図書の両名は、原告らに対する本件土地からの立ち退き工作が目論見どおり進展しなかったことから、立ち退き反対運動の中心人物と見えた原告中原照雄に対する報復として、意思を相通じ、甲事件の提訴について報道する新聞に掲載された同原告の顔写真を利用して、あたかも同原告が手形を乱発し不渡り手形を出しているかのような虚偽の事実を公然と摘示して、同原告の名誉及び信用を毀損したものと認められ、右被告らの行為が共同不法行為を構成することは明らかである。

しかしながら、被告福田貞義が、前記コピーの原告中村照雄の顔写真部分を黒マジックで囲った点は、同原告の顔写真を目立たせるためにしたものとも見られ、必ずしも新聞の死亡記事を連想させるものとはいえないから、同人に対する脅迫行為を構成するものとは認め難い。

3  損害

(一)  慰謝料

右認定の乙事件被告らの不法行為の動機、態様、その期間、これによる原告の営業や心身への影響の程度等諸般の事情を斟酌すると、原告中村照雄が右行為により同被告らに請求できる慰謝料としては、三〇万円が相当と認められる。

(二)  弁護士費用

乙事件の事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告中村照雄が乙事件被告らに対して賠償を求めうる弁護士費用の額は、五万円が相当と認められる。

五  結論

以上によると、原告らの甲事件請求は、全て理由があるからこれを認容し、原告中村照雄の乙事件請求は、乙事件被告らそれぞれに対し三五万円及びこれに対する、被告福田貞義に対しては本件共同不法行為後である平成元年九月一七日から、同図書に対しては本件共同不法行為後である同月七日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 佐藤嘉彦 北川清)

〈以下省略〉

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